やさしい日本語ツーリズムを支える理論は、主として以下の3点です。
最も直接的なものは、Cohen & Cooper (1986)による tourist talk の概念です。フォリナー・トークのバリエーションであるツーリスト・トークは、旅行客の特性である滞在の一過性、地元居住者のいわゆる「おもてなし」の心理、また接触場面の特性などによって特徴づけられる談話のかたちです。当研究会の日本語ツーリズム部会座長の加藤好崇による、加藤(2014, 2016)はツーリスト・トーク研究の嚆矢です。
次に、佐藤(1999)、庵(2010)らによって提唱された「やさしい日本語」です。本研究会では先達の研究における構文の選択や「ミニマムの文法」、さらに語彙の選択などを旅行者との接触場面を念頭に考えていきます。また日本語非母語話者との日本語会話におけるコミュニケーション上齟齬については、本研究会のやさしい日本語部会座長である荒川洋平(2010)のケーススタディを参考にしています。
さらに言語管理理論の観点からはサウクエン・ファン(2011)の第三者言語接触場面の研究や、ミクロなレベルでの言語政策研究、インターアクション研究および教育の成果が当研究会の考え方に大きな影響を与えています。
それぞれの部会では今後、学会発表、論文の執筆、シンポジウム開催、文献リストの充実などをはかっていきたく計画しております。学術関係者の皆様には、やさしい日本語を用いたツーリズムの研究にご関心、ご理解をいただき、本研究の発展にご協力いただければありがたく存じます。
(荒川洋平)