このプロジェクトにおいては、「日本語教育=外国人に日本語を教えること」について、ほとんど関心がありません。では、なぜ日本語教育関係者がこのプロジェクトを始めたのでしょうか。 それは「日本語教師」という職業の幅を広げるためでもあるからです。
このプロジェクトでは、
・日本語教師が、日本人に、(やさしい)日本語を教える
・日本語教師が、接客のリーダーになる新規追加
という、全く新しい職業機会・収入機会を提供したいと考えています。
筆者が先日日本語教育学会実践研究フォーラムに参加した時、グループディスカッションで、
「日本語教師をやめたら、このスキルって何に役に立つんでしょうね」
という話題が出ていました。多くの皆さんが頭を抱え、うんうんうなっていました。 その時私が、
「みなさん、日本にきている台湾人とかに、語彙をコントロールして日本語を話すことができるじゃないですか」
というと、 「あ、そうですね。観光とかに使えるかも」 と話が盛り上がっていきました。
このプロジェクトでの「やさしい日本語」は、「日本人への普及」が最大目標です。
これまでの「やさしい日本語」は主に行政と外国人住民の間のコミュニケーション手段として研究・実施されてきましたが、地域住民への普及が重要であるとの認識はあるものの、その方法については具体的に推進できるものがなかったように見受けられます。
今回「観光」という、特に地方自治体・市民に関係のあるテーマで、経済的・交流的動機を推進力として、日本人へのやさしい日本語の普及を試みます。その推進役は、すでにやさしい日本語が実践できる「日本語教師」に他なりません。
法律的な理由により1クラスの人数が制限されている日本語学校などと違い、経済的な動機をもつ日本人に対してコミュニケーション術を教えることは、これまでと全く違った収入が期待できると思います。非常勤講師で週数コマ持っている人が、他の日に職場でのやさしい日本語の講座に出向いたり、実際に観光の現場に指導に行くといったことは、今でも可能でしょう。
またこれまで地域ボランティアとして外国人住民に貢献してきた方々も、きちんとやさしい日本語の技術を体得することで、ボランティア活動の他に、観光関係で収入を得ることもできるかもしれません。外国人と定期的に話している日本人なら、やさしい日本語はちょっと勉強すればすぐにマスターできるでしょう。
地方創生は、最初に国の交付金があったとしても、その後地方が自立的に継続できるサイクルにするための「雇用」拡大が必要になります。本プロジェクトを関係者と協力して推進することで、日本語教師のスキルが観光においてもちゃんと「値段のつく」技術として、世の中に認知されるようにしていきます。
(吉開章)