アラビア語は日本語・中国語・韓国語と並び、英語話者が学ぶのに最も難しい言語の1つとされています。ではアラビア文字は何文字あるか、みなさんご存知でしょうか。
答えは、たった28種類です(東京外国語大学言語文化学部アラビア語ページ参照)。
実際の単語の中では連続してつづられるため、単語の最初、中、最後で形が変わり、単独の文字以外に3倍ぐらい似た文字を覚える必要があります。しかし、原理的にはアラビア文字はラテン文字とほぼ同数の文字数なのです。
私は言語交換(お互いの言語を教える)をきっかけに日本語教育に関心を持ちました。もともとフランス語を勉強したくて、インターネットで作文をチェックしてくれるLivemochaに参加。フランス人が添削してくれると思ったら、アドバイスをくれたのはモロッコ人やアルジェリア人など北アフリカのムスリムの人がほとんどでした。
彼らはアラビア語・フランス語の他、英語も話せる上に日本語まで勉強しようとしている人たちでした。はじめてムスリムの人たちに触れ、興味をもつようになっていろいろ調べてみたところ、アラビア文字の数が28文字しかない、ということを知りました。大変なショックでした。
日本語はざっくりひらがな50、カタカナ50、漢字2000を覚えないと読むものも読めません。しかもそれは母音と子音の組み合わせでもなく、もっとも基本的なかな文字でも、非漢字圏の人にはランダムな形にしか見えないでしょう。
アラビア語は難しい、といっても、所詮は28種類の変形で構成されます。日本語を学んでいるアラビア語話者に私たちが「アラビア文字は難しい」と言えば、「28文字しかないのに、覚えようとしていないだけじゃん」と思っているかもしれません。
私が彼らに日本語を教える上で、せめてもの手本を示すために、「 Muslim Kids School 」というYouTubeチャンネルを何回も見て、文字の名前だけ覚えました。おそらくインドネシアのアラビア文字学習番組です。900万回以上再生されています。また、白水社「アラビア語のかたち」を何回も読んで、単語の読み方を勉強しました。
私が知っているアラビア語(だいぶ忘れましたが)は、アラビア文字の名前と、ごく数語の挨拶だけです。単語の発音が少しわかっても、意味は全くわかりません。しかしムスリムの人に私がアラビア文字を少しでも知っているというと、いつでもあっという間に仲良くなれます。たかだか28文字分覚えれば、誰でもこの体験ができます。
日本人の英語コンプレックスは根深く、外国人はかな文字や漢字を避けてすべてローマ字で日本語を勉強していると思っている人も多いようです。しかし、私の体験からいうと、アラビア語ネイティブの人はアラビア文字の美しさに誇りをもっており、日本の文字にも同様の美しさを感じている人がたくさんいます。
アラビア語ネイティブの日本語学習者とは、「やさしい日本語」で話し、「28文字」を覚えるだけで一生の親友になれるかもしれませんよ。
(吉開章)