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外国人急患受け入れ体制に取り組んだ、旅館の女将の話。

葡萄に種子があるように
私の胸に悲しみがある
青い葡萄が
酒になるように
私の胸の悲しみよ
喜びに成れ

この高見順の詩を知ったのは、ある旅館の女将さんへのインタビューのときでした。この旅館は外国人のお客さんが非常に多い旅館です。

 

 

何年も前のこと、この旅館で新年を迎えたある外国人旅行者が急病になってしまいました。救急に電話をしたのだそうですが、教えてもらった病院には外国語が分からないからといって対応を断られてしまいます。仕方なく、女将さんは正月のまちを病院を探して回らなければなりませんでした。

実はこのとき、旦那さんが危篤状態でした。女将さんは気が気ではなかったでしょう。結局、なんとか臨終に間に合うことができたのですが、なぜこんな仕事をしているのかと考え込んでしまったそうです。そのときの女将さんの気持ちは痛いほど分かります。

しかし、旅館をたたむことはせず、女将さんは24時間外国語対応ができる病院を作ってくれるようにかけあけ合いました。また、そのまちのインバウンド委員長にもなって外国人旅行者が安心して訪れることのできる環境作りの仕事を開始しました。

以前、私の記事で観光接触場面の「事後調整化」「ポジティブ・ポライトネス化」という特徴をお話ししました。確かにミクロなレベルのコミュニケーションの中で、私たちはお互いの関係をうまく形成するような言語行動を取っています。しかし、そういった個人の力だけではお互いに良い気分になれるとは限りません。そこには行政などによる環境整備作りも欠かせません。

その後、このまちでは救急車に英語対応ができるスタッフを乗せたり、多言語コールセンターの運用を開始したり、少しずつ体制が整備され始めました。

女将さんの葡萄の種子も酒になりつつあります。
(加藤好崇)

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