タイ日本共同国際研究集会、観光とコミュニケーションの報告です。
10月29日、バンコクのサイアム大学で観光とコミュニケーションに関わる研究集会が開かれました。私も観光コミュニケーション研究会のメンバーとともに参加してきました。
タイはプミポン国王が亡くなってまだ日も浅いこともあり、黒い服を着ている人が多く、テレビなどを見ていても哀しみに沈んだ雰囲気が強く伝わってきました。しかし、そんななか研究集会は熱気に包まれたものとなりました。
研究集会ではうれしい出会いもありました。このやさしい日本語ツーリズム研究会のホームページをときどき訪れてくれているという日本語教師、それから私が以前記事で紹介したある女将さんの娘の先生をなさっていたという日本語教師。特に後者の先生の場合は、まさに奇跡に近い確率の出会いでした。
さて、研究会では私も「接遇のための観光リソースと日本語の役割」というテーマで発表しました。発表の内容の一部を要約すると以下のようになります。
この研究は海外旅行ガイドブックLonely Planetや旅行口コミサイトTrip Adviserなどから選んだ、外国人旅行者に人気のある小規模和式旅館11施設の言語使用に関するものです。私は日本人ホストが外国人旅行者に使う言語のレジスターをツーリスト・トークと呼んでいるのですが、その中でも特に今回は日本語に注目をしました。
いずれも外国人に人気のある施設なので、英語だけが使われていると思われがちですが、実は日本語も結構使われているのです。下のような場面がその例です。
①チェックイン、チェックアウトのような定型化された会話場面では英語使用が普通ですが、その場面に含まれる挨拶、いい淀み、日本文化固有のものの説明では、英語と日本語の併用、あるいは日本語のみが使用されることがあります。
このような場合、日本人ホストには日本語で「日本を感じてもらいたい」「この先の日本旅行でも遭遇する日本語なので学んでもらいたい」という意識がありました。
②おしゃべりのような自由会話場面において、外国人旅行者に日本語能力がある場合、日本語が使用されます。
このような場合、「日本語を使ってもらってありがとうございます」という意識を持つ日本人ホストもいて、英語が使えないことを否定的に評価しています。つまり、英語は観光接触場面の第一言語であるという前提がありそうです。ただ、無意識であるにせよ外国人旅行者との日本語での会話は、日本語学習の援助を行っていることになるでしょう。
③外国人旅行者が日本語に関するメタ言語的質問をしてくる場合に日本語が使われます。
ある旅館で、最近日本語で話したり、日本語の質問をしたりする旅行者が増えてきたという話を聞きました。やはりこの場合も、日本人ホストは日本語学習の援助者になっていると言えます。
このように外国人が多く集まる旅館でも、日本語は使用されています。
日本語を使う場合、日本人ホストは日本語を「観光リソース」として利用したり、「日本語学習の援助者」となったりしています。ただ、英語を使わなければいけないという意識を強く持っているので、日本語使用に関しては消極的であったり、日本語学習の援助を行っているという自覚はありません。
しかし、日本語学習者(経験者も含め)も増え、日本文化に興味を持ってくれる人が増加している今、たとえ英語使用がメインであるとしても、日本語そのものや日本語コミュニケーションの価値を認めていくことは大切なことなのではないでしょうか。
今後は「日本語の観光リソース」としての価値、日本人ホストの「日本語学習の援助者」としての価値を積極的に認めるための意識変革が我々に必要かもしれません。
(加藤好崇)