先日研究会の問い合わせメールあてに慶應SFC総合政策学部の平高史也研究室の学生の方から連絡があり、ぜひ話を聞きたいとのことで、平高研究室および杉原由美研究室の合同で勉強会を開いていただき、湘南藤沢キャンパスに伺いました。質疑も活発に行われ、学生のみなさまの優秀さに触れることができた90分でした。以下、研究室のお許しを得て、学生の方々の感想をご紹介します。
(海外インターンシップ経験のある日本人学生)
わたしは3年ほど民泊ホストをやりながら訪日外国人旅行客と関わってきて今は旅行客の期待や障壁を言語の面で研究をしています。たしかに日本語を学んだことがある旅行者は英語での会話の中に日本語の言葉を挟んだりしてどうにか日本語を話そうとします。話したいんだと気付くとわたしも相手のペースに合わせた日本語を話します。先日のお話やディスカッション聞いて、やさしい日本語とは相手によりそって話す日本語こそであると感じました。そうすれば相手にバカにされていると感じさせるはずもありません。 また、わたしがオーストラリアに旅行していたとき、ある現地人男性がわたしに 分かりやすくするために動詞の原型で話していました。わたしの英語をしっかり聞いて同じレベルで話してほしいと感じました。 何より外国人とのコミュニケーションツールとしての 日本語に熱いお話をきいて刺激を貰いました。
(帰国子女の日本人学生)
私は高校の時のスピーチコンテストや論文の中で、「日本にくる外国人に英語で話しかけるのが当たり前になっているのがおかしい!」と訴えてきました。その時は具体策が思いつかず、訴えるだけという形だったのですが今こうして具体的にこの現状を変えるような活動をしていらっしゃる方がいらっしゃるということを知ることができたというのがとても刺激になりました。 私は日本人だけでなく、外国人も旅行先で「英語で話せば伝わるだろう」という考えで現地の人に話しかけるという現状が存在しているとも思います。なので旅行や仕事で日本に来る外国人の方にはぜひ少しだけでも日本語に触れてから来日してくれることを願っています。
(海外在住経験のある日本人学生)
今回お話を聞いて、「やさしい日本語」というものにとても可能性を感じた。それは、普段日本人が話している日本語がもとになっているというから、英語や外国語に対して拒否感を感じている人も外国の人と接するチャンスを得られるということ、外国からの観光客の人にとっても日本語での観光案内を希望しているということで両者の利益が一致するからである。 しかし、一方でやさしい日本語だけでの観光案内では不十分であると感じたのも事実である。それは、観光で日本に来ている人全員が日本語での観光案内を希望しているとは言えず、またやさしい日本語では説明しきれないことがあるからである。よって、やさしい日本語と英語や中国語、韓国語での観光案内のバランスをとっていくことが重要であると感じた。
(日本のインターナショナルスクール出身の日本人学生)
ハトバスなどのバスツアーにも、やさしい日本語を取り入れると良いのではないでしょうか?バスガイドさんにやさしい日本語を学んでもらうことにより、バスガイドさんと外国人観光客との間で良いインタラクションが生まれると思います。バスのガイドさんだけでなくても、町を歩くツアーガイドさんや、浅草の人力車の方にも良いかもしれません。外国人観光客増加にも繋がるのではないでしょうか。 個人的な感想ですが、将来この取り組みが海外にも広まってほしいです。フランスに行った際、大学の授業では分かるフランス語が、現地の人が話すスピードだとついていけませんでした。ゆっくり簡単に話してくれていれば聞き取れていたと思います。このやさしい日本語は、日本語に限らず他の言語でも需要があると思いました。
(ワーキングホリデー経験のある日本人学生)
レクチャーありがとうございました。やさしい日本語ツーリズム研究会の取り組みが様々な問題を解決していることが実感できました。そして日本語を学びにきている外国人が、日本人にとっての先生になる日が来るということに大きな可能性を感じました。自分がオーストラリアにいたとき、現地のオーストラリア人はほとんどゆっくりと丁寧な英語を選んで、スラング等を抜いて話してくれました。しかしごく稀に、速すぎるスピードやわからない単語ばかりを使って(いわゆるネイティブそのものの話し方)話してくる方もいてそういう時は自分の話せるレベルとのギャップに、こちらもひるんでしまうということがよくありました。そのような“外国人”であり“学習者”である体験をすればするほど、相手に歩み寄り、また非母語話者との会話への慣れが生まれるのではないかと思いました。その点オーストラリアは移民国家で様々な英語を話す人がいますが、日本では母語話者が話す日本語だけが正しいと言う風潮があり、まだまだ外国人と日本語で話すということに慣れていないなと思いました。これらを解決するきっかけとして、誰もが関わりうる観光というものをステージに外国人と日本語で話す、そんな日本を作っていきたいと思いました。
(海外在住経験のある日本人学生)
やさしい日本語は講義で習っていたので、今回のお話はとても興味深かったです。
やさしい日本語は外国人に対してわかりやすく情報を共有する手段として有効だと思います。だからこそ、今回の話を聞いて、やさしい日本語ツーリズムを通して多くの人にやさしい日本語を知ってもらいたいと思いました。
最近、私の近所にアメリカ人が引っ越してきました。日本なら自分が近所に挨拶周りをするけど、アメリカなら近所の人が引っ越してきた人に挨拶するので、もしそのままだったらお互い話す機会はありませんでした。私の親が挨拶しに行ったきっかけで二人は仲良くなりましたが、他の近所の人たちは英語が話せないという理由に、なかなか話にいけないそうです。アメリカの人は少し日本語が理解できるということだったので、このように言語の壁や文化の違いを理由に仲良くなれないというのは勿体無いと思いました。吉開さんがおっしゃっていたように、今回はツーリズムの観点でやさしい日本語を使用していますが、それが多くの人に浸透して、やさしい日本語を通して外国人と日本人が交流するきっかけや自信につながればいいなと思います。
同時に、講義の時も何人かいったように、やさしい日本語を使うことで不快に思う外国人がいるかもしれません。やさしい日本語をつかう目的や見極め方をしっかり使用する人が認識することが大切だと思いました。
(日本生まれの留学生)
大変興味深いお話ありがとうございました。 講義を受け、 世の中は英語だけじゃないし、日本ではやさしい日本語を普及すべきだと感じた。外国人観光客や在日留学生に対して決して英語を使わなければならないのわけがない。
今私が所属しているサークルには、今学期まで外国人は一人だったけど、つい最近アメリカ出身の留学生が入ってきた。確かに日本語がまだ初期レベル だけ ど、彼女がどれだけ頑張って日本語で話そうとしても、サークルの人たちが無理矢理に英語で彼女に話しかけたりした。それをみると、やはり日本人の外国人に対する先入観を変えるのが難しいと思った。アジア系以外の顔を見ると自然に英語で話そうとする日本人は多くいる。現状を改善するの が今後の課題では ないかと思う。
(日本人学生)
この度は貴重なお話をいただき、誠にありがとうございました。大変勉強になりました。 今回、やさしい日本語ツーリズム研究会の内容に目的、方針をお聞かせ頂きました。そこでの目的の内容が、私がそもそも杉原先生の研究会にお邪魔した時の志望理由ととても似ていることに気づき、お恥ずかしながら心の中で仰天したことを覚えています。
在日外国人、および外国人旅行者との意思の疎通が容易で、しかも摩擦の起きにくいコミュニケーション方法は何か。とても難しいテーマになるだろうと個人的に予想していた問題が、“やさしい日本語”を使うという灯台下暗し的な方法を使うことにより、解消されてしまうという発想の的確さに、ただただ驚くばかりです。
僭越ながら私は文章を書くことが好きです。いかにして相手に伝わりやすい文章を書くか、ということは永遠のテーマといっても過言ではありません。相手に伝わりやすい文章を構成するにはいかにシンプルに作るか、誰にでもわかりやすい単語で簡潔にまとめるか、ということが鍵になってきます。これは小説、論文、レポート、兼ねては対話や意思の疎通、これらすべてにおいて言えることだと感じています。その上で、伝えたい相手を言語で限定するのは仕方ないことだ、よしんば私の使う日本語が日本に住むすべての人々に伝わらなかったとしても、それは詮方の無いことである。と勝手に自己完結していた部分もありました。ですがこのやさしい日本語を正しく学び、修めることが出来れば、より多くの人々に伝えることが出来る。文面においても、口頭においても、どちらもです。こんなすばらしいことは無い、と真摯に感じた次第です。
これから先、日本のグローバル化、ダイバーシティ・マネジメントや五輪開催などで来日外国人とのコンタクトの増加は我々日本語を母国語とする日本人にとって避けては通れない道です。そこで日本語という、日本国においての最大のアイデンティティーを損なわず、いかに対応していけるか。このやさしい日本語ツーリズム研究会が大きな役割を担っていくことは間違いない、と感じました。
確実に日本の未来を左右していくプロジェクト。微力ながら一助となれれば幸いです。
この自分の小さな力何が出来るか、試行錯誤していきたいと思います。
(日本生まれ日本育ちの中国籍学生(日中英語話者))
非常にためになる公演でした。昨日の素朴な感想として、「やさしい日本語」は非常に興味深いものだと思いました。この「やさしい日本語」は今後間違いなく日本社会で普及すると考えます。その理由として
1.東京オリンピックが2020年に開催されるため
2.広告会社の「社会の流れにのる」ことを活かして経済効果が期待できる
3.ことばの持つ音声的な効果で、海外の人にもわかるクールジャパンをアピールできる
このようなことからも、今後「やさしい日本語」が注目され始め、それを利用したビジネスが生まれるだろう思います。
「やさしい日本語」が僕の注目する多文化共生の一助になるかどうかについて考えたのですが、吉開さんのおっしゃっていたように、一時的な旅行客と友人になるという効果は発揮すると思います。しかし「やさしい日本語」を長期タームで取り入れ、日本に在住する外国人と共生できるかどうかは少し疑問です。
「やさしい日本語」はもしかしたら共生という観点から見ると、単なる「逃げ」で共生を遠ざけているものなのかもしれません。それは日本語を外国人に使用させることを強要させるとも受け取ることもできます。日本で外国の人とコミュニケーションをするならば、そもそも日本に生活する人々自身が多言語(英語だけではない)を学べば解決する話です。そうすることで日本の人が新たな言語を学ぶわけですから、この閉鎖された社会に他国を理解するための、新たな希望をもたらしてくれると思います。「やさしい日本語おねがいします」と「やさしい日本語はなせます」という区別されたバッジをつけるという行為は、まさに相手が日本語母語話者に合わせるというスタンスを取っているといえるでしょう。この区別に対しては少し違和感を感じます。
今後とも日本語を研究する身として、やさしい日本語についても本を読み、しっかりと考えていきたいと思います。
平高先生、杉原先生、学生の皆様、ありがとうございました。
(吉開章)