「入門・やさしい日本語」を読んだ、日本にお住まいで西洋圏出身の読者の方から、ご自身の体験を含めたご意見をちょうだいしました。大変示唆に富んだご意見ですのでぜひご覧ください(太字部分はこちらの方でつけました)。
<外国人に伝わる日本語>
やさしい日本語はとてもためになる取り組みですが、外国人の立場から感じてきたことも知っていただきたいです。以下日本での生活と日本語教育の経験を基にまとめてみました。外国人に接する医療関係者・法律関係者・職場の上司に役に立つかもれません。外国人が日本語を調整してもらいたい時について書いていますが、外国人だから日本語が必ずしも不自由という誤解も避けたいと思います。
1. 聞き直しても恥ずかしくないような雰囲気があると何よりです。
日本ではほとんど使われていないフレーズですが、外国人に役に立つ「もう少しゆっくり話してくださいませんか」や「~は何ですか」等を聞くチャンスがあると一番助かります。緊張して早口になる人が多いですが、緊張感が外国人に伝わってしまい、ついつい恐怖や恥のあまりで頭が真っ白になってしまった場合に、効率よく情報交換するすることが難しくなります。
様々な要因によって誤解の特質が変わるので、誤解の可能性は無限にありますが、一番よくあることは、皆さんが言う内容の中に聞いている側が理解できなかった部分(「?」で表す)が出てくることです。例えば、そちらは「抗生物質を服用して下さい」と言った場合、伝わった内容は
- 完璧に「抗生物質を服用して下さい」
- もしくは「????を??して下さい」
- もしくは「????質を服用してください」
- あるいは「?????を服?して下さい」
などのように理解されます。知らない単語ほど記憶しにくいので、理解のための手がかりがなくなります。また、知っている単語が文脈の当てはまるか考えてみることが多いです。外国人は迷惑をかけたくないことが多いため、「『こうぶしつ』は薬の名前ですか」、「(『質』の漢字があるから)薬の質ですか。今回の受診の質を評価するアンケートを記入するように言われたのか」などを聞き返したり、一生懸命に考えたりすることが多いです。聞いている側が言われた内容を精いっぱい理解しようとしているので、聞き直すチャンスが与えられたら本当に助かります。
また、話が長くなるほど、?が増えて、混乱しやすくなっていくので、理解してほしい内容を話す時は長い説明をしないようにすると混乱が避けられます。「理由1そして理由2と理由3だから結果」という説明は「理由①→(聞き直しのチャンス)→理由①の簡潔なまとめ→そして理由②→(聞き直しのチャンス)→理由①と②の簡潔なまとめ→(聞き直しのチャンス)→結果(聞き直しのチャンス)」のように分割できる構造の方が、安心して聞けると思います。
2.英語が通じない可能性を予測してほしいです。
世界の英語話者の中でネーティブの数より英語がネーティブじゃない人の数の方が圧倒的に多いようです。更に、英語圏出身者の間でも、そして日本人同士の間でさえ誤解があり得ることを考えると、西洋人なら英語で何でも言ってもいいというイメージが間違っていることが分かります。
3. 日本語に英語を混ぜる場合に気を付けてほしいです。
英語が通じるようであれば、自分が思い出した英語より、向こうの理解にとって重要な単語を「日本語(沈黙)英語」の形で言うと分かりやすいかもしれません。
例えば、「やっぱり抗生物質(短い沈黙)アンチビオティック(短い沈黙)を飲んで下さい。」と言うと、どちらが英語、どちらが日本語で言われたのかが分かります。そして、外国人はキーワードを日本語で聞いて分かるか、英語で聞いて分かるかのどちらかになりますから、伝わる可能性が高まります。
4. 大切な部分をいくつかの似ている言葉で言い換えてみると伝わりやすいです。
中国人に接してみたら、漢語(の一部)は日本語と似ていることが分かりました。外来語の一部も英語に似ています。そこで、重要な言葉に似ている和語・漢語・外来語(カタカナ語)のセットなら、いずれかが通じることがあり得ます。
また、特定の外国人が医療の制度・教育制度をどの程度わかって、どこが想像できないほど今までの(日本と住んだことある場所での)経験と違うのか、予想することは不可能です。また、例えば、「から」は分かるけど、「ため」はまだ分からない人がいます。そこで、例えば「センター試験。大学入学を目指す高校生の全員が受ける試験。日本の高校で勉強している高校生です。そして、大学に入りたいです。大学に行きたいです。そして、センター試験を受けて、大学生になります。」(「日本語の森」より)のような言い換えをすると、外国人ははじめての情報でもちゃんと理解するか、分かっているのにとうんざりしてしまうかの、どちらの可能性も考えられます(笑い)。
5. 空気を読む力は外国人とのコミュニケーションでさえ役に立つかもしれません。
余計にゆっくりはっきり話す人がいますが、外国人が話しているスピードに自分の話すスピードを合わせてみたらどうでしょうか。表情を見て、困っていそうであれば、ポーズして、「何か分からないことが、、、」と温かい声で言ってあげたらどうでしょうか。外国人が使っている単語を自分の話に使ってみたらいいことがきっとあるでしょう。あるいは、正確な日本語を教えてあげたら喜んでくれるでしょう。例えば、明らかに初級の相手が「妻」を使えば、「家内」や「ワイフ」より同じく「妻」を使ってみて、「奥さん」を使えば、「奥さん」か「私の奥さん・私の妻」みたいな言い方が自然とコミュニケーション質を向上させるかもしれません。
