常識を超えて「やさしい日本語」に取り組む、校正会社と新聞社。
本日12月12日、広告・広報の編集サービスを提供する株式会社ダンク(東京都台東区)に招かれて、2度目となる社員向け「やさしい日本語」研修会で話をしました。
取引先から「やさしい日本語は対応できますか」という問い合わせがあったことから関心を持ち、2017年末に担当者が筆者にコンタクトを取ってきました。まだ講演依頼が殺到していない時期でもあり、民間企業からの問い合わせは初めてであったことからすぐに面会して詳しい話を聞きました。驚いたことに同社の一番強みは「校正」ということでした。
私もウェブサイトの書き換えのようなニーズは将来高まると見て協力することにし、2018年1月に同社で講演を行いました。通常私の講演では口頭のコミュニケーションについて論じるのですが、ダンクでは自治体などで行われている「書き換え」についてを中心にしました。
同社はその後さっそく社内プロジェクト化し、社内発表をするので見に来てほしいということで再び伺いました。自治体ホームページを題材に、語彙難度チェッカーを活用しながらやさしい日本語に書き換えていましたが、正直言って使い物にならないものばかりでした。「校正」を生業とする方々が書いた、1語1文すべてを置き換えるようなやさしい日本語では、結果として冗長になることは避けられません。
私からは、「このプロジェクトを進めるなら、やはり定期的に専門家の指導を受ける必要がある」と提案しました。内心は「校正会社には無理だろう」と思っていました。しかしダンクは私の紹介した外部アドバイザーを有償で招くことを決め、9月19-20日に東京国際フォーラムで開催された「2018よい仕事おこしフェア」で、やさしい日本語をテーマとした出展をしています。
「やさしい日本語」を外国人向けのものと位置づけるのであれば、それは「多言語対応」の一手段です。オリジナルの日本語をそのまま翻訳すれば、翻訳コストが高くなるだけでなく、外国人には無関係な情報も含み、結果的に分かりにくくなります。「やさしい日本語」への翻訳はオリジナルの日本語と同値のものにすることではなく、多言語化に必要な情報だけを抽出したエキスを作るようなものと言えるでしょう。そのエキスを様々な言語にすることは、無料のAI翻訳でもかなりの精度になります。
校正の仕事は、誤字脱字をチェックするだけでなく、論理構造や情報そのものの裏付けもチェックする仕事です。オリジナル文章に赤入れをするということに止まらず、より平易な文法で表現したり、外国人に必要な情報を整理した別納品物も作るといった方向性にもっていければ、校正会社はウェブサイトの多言語化において大きなビジネスチャンスを掴むでしょう。ダンクは独自ウェブサイトを立ち上げ、本格的にビジネス化を進めていこうとしています。
https://www.dank-yasanichi.jp/
時期を同じくして、西日本新聞が外国人住民に見てほしい記事を「やさしい日本語」にも翻訳して発信するという「やさしい西日本新聞」プロジェクトを開始しました。新聞記事の内容をさらに整理してやさしい日本語にするのは、校正会社が内容を取捨選択するのと同じように、新聞の常識から外れていることでしょう。しかし西日本新聞はこれを「多言語化」の一環として取り組んでおり、オリジナル記事の書き方を変えたわけではありません。別記事として書いた「やさしい日本語」でわかりやすくなるプラス面と情報が減るマイナス面を評価するのは、あくまで読者になってほしい外国人です。
ダンクにしろ西日本新聞にしろ、校正技術や記事への質を担保できる企業だからこそ、通常の日本語では網羅しきれない読者に対しても多言語化を配慮すべきと考えるようになったのでしょう。そしてキリのない多言語化を合理的に進める上で「やさしい日本語」から始めようという動きが民間レベルで見られるようになったのは、極めて画期的なことだと思います。
本日12月12日にダンクで講演した内容は、私が通常やっている自治体や国際交流団体向けにやっているものにしました。このような講演が日本中で行われ、各地で「やさしい日本語」に実際に取り組みたいという機運が広がっていることに、社員の方々も驚き、手応えを感じているようでした。
(吉開 章)
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